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和歌山地方裁判所 平成4年(ワ)221号 判決

原告

甲野花子(仮名)

ほか一名

被告

丙野三郎

ほか二名

主文

一  被告丙野三郎及び被告株式会社ジヤパレンは、連帯して、原告ら各自に対し、各金二〇三三万四二九八円及びこれに対する平成二年一〇月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告安田火災海上保険株式会社は、被告丙野三郎に対する本判決が確定したときは、原告ら各自に対し、各金二〇三三万四二九八円及びこれに対する右確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らの被告らに対するその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを三分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告丙野三郎及び被告株式会社ジヤパレンは、連帯して、原告ら各自に対し、各金三〇一六万〇一九〇円及びこれに対する平成二年一〇月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告安田火災海上保険株式会社は、被告丙野三郎に対する本判決が確定したときは、原告ら各自に対し、各金三〇一六万〇一九〇円及びこれに対する右確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、平成二年一〇月九日午後九時三五分ころ、岩手県下閉伊郡田野畑村和野一七番地二先において、被告丙野三郎(以下「被告「丙野」という。)が被告株式会社ジヤパレン(以下「被告ジヤパレン」という。)所有の自動車を運転中過失により右自動車を崖下に転落させ同乗者甲野正子を死亡させたとして、右甲野正子の相続人(子)である原告らが、民法七〇九条に基づき被告丙野に、自賠法三条に基づき被告ジヤパレンに、それぞれ損害賠償請求し、あわせて、被告ジヤパレンとの間で右自動車につき自動車保険契約を締結していた被告安田火災海上保険株式会社(以下「被告安田火災」という。)に対し、債権者代位権により条件付きで被告丙野の被告安田火災に対する自動車保険普通保険約款第四章二〇条に基づく保険金請求権を代位行使してその支払を請求した事案である。

一  (争いのない事実)

1(一)  原告らは、いずれも亡甲野正子の実子であり、同女の死亡により同女の債権を二分の一ずつ相続した。

(二)  被告丙野は、左記事故において、加害車両を運転していた者であり、同乗者甲野正子を死に至らしめた。

(三)  被告ジヤパレンは、加害車両の所有者であり、同車両を被告丙野に貸与したレンタカー会社である。

(四)  被告安田火災は、被告ジヤパレンとの間で加害車両の所有、使用又は管理に起因して被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによつて被る損害をてん補することを約している保険者である。すなわち、被告安田火災は、被告ジヤパレンとの間に、平成二年七月二九日、右加害車両につき運転者及び被告ジヤパレンを被保険者とし事故日を保険期間内とする保険金八〇〇〇万円の自動車保険契約を締結した。

(五)  被告丙野は無資力である。

2  次のとおり事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成二年一〇月九日午後九時三五分ころ

(二) 場所 岩手県下閉伊郡田野畑村和野一七番地二先

(三) 態様 被告丙野が、甲野正子を同乗させて被告ジヤパレン所有の普通乗用車(宮城五五わ四八四三、以下「本件車両」という。)を運転し、右場所にさしかかり、時速約五〇キロメートルで進行していたが、右車両を崖下に転落させ、同乗者甲野正子を頸椎損傷等により死亡させた。

3  自賠責保険金の受領

本件事故についての損害のてん補として自賠責保険金から原告らに対し金二五〇〇万円が支払われ、原告らは各自その二分の一の金一二五〇万円を自己の取得分として受領した。

二  (原告と被告丙野間において争いのない事実)

被告丙野は、前方左右を注視し道路の湾曲に沿つた適切な進路を保持して進行すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、助手席の同乗者甲野正子の方に目をやり、前方左右を注視せず、漫然進行した過失により、本件車両を約八〇メートル下方の谷に転落させた。

三  (争点)

1  (原告らと被告ジヤパレン及び被告安田火災との間の争点)

本件事故は、被告丙野の故意、すなわち被告丙野が甲野正子と心中しようとして本件車両を意図的に道路から崖下に転落させたことにより発生したものであるのか、被告丙野の過失により発生したものであるのか。

過失によるものである場合、その過失の内容はいかなるものであるか。

故意によるものである場合、自動車保険普通保険約款第一章賠償責任条項第五条第一項第二号所定の「記名被保険者以外の被保険者の故意」に該当するか(被告安田火災は、同条項の適用により損害てん補義務を免れるか。)。

2  (原告らと被告ジヤパレン及び被告安田火災との間の争点)

被告ジヤパレンは、自賠法三条所定の「自己のために自動車を運行の用に供する者」に該当するか。

3  亡甲野正子の逸失利益

4  原告らの損害(慰藉料、葬儀費用、弁護士費用)

5  好意同乗減額がなされるべきか。

6  (原告らと被告安田火災との間の争点)

原告らは、原告らの被告丙野に対する損害賠償請求権を保全するため、民法四二三条に基づき、原告らと被告丙野との間の損害賠償金額の確定を停止条件として、被告丙野の被告安田火災に対する自動車保険普通保険約款第四章二〇条に基づく保険金請求権を代位行使できるか。

7  (原告らと被告丙野との間の争点)

被告丙野に対する原告らの本訴請求が権利の濫用になるか。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件事故は被告丙野の故意によるものか、過失によるものか等)について

証拠(甲五号証の1、八号証ないし一六号証、乙一号証の1、2、丙三号証、五号証、七号証、一〇号証、一三号証ないし一六号証、検丙一ないし二六号証、被告丙野本人)によれば、以下の事実が認められる。

1  被告丙野(昭和四〇年一〇月一〇日生まれ)は、両親と同居する自宅から通学する国立和歌山大学の学生であり、平成二年一月から弁当屋「美くにや」でアルバイトをしていた。

2  看護婦であつた甲野正子(昭和二八年一〇月四日生まれ)は、昭和四七年七月甲野二郎と婚姻し、同人との間に原告甲野花子(昭和四八年一一月一二日生まれ)及び原告甲野太郎(昭和五四年六月一七日生まれ)をもうけたが、昭和五七年七月甲野二郎と死別し、その後食料品小売業を営む乙山二郎(後に養子縁組により丁川と改姓)と内縁関係になり、同人及び原告らと同居していた。

甲野正子は、亡夫の看病のため一時辞めた以外は平成二年四月まで看護婦として稼働してきたが、適当な勤務先(病院)が見つからないので、平成二年八月一日から弁当屋「美くにや」でパートタイマーとして働くようになつた。

3  右「美くにや」で同僚となつた被告丙野と甲野正子は、一二歳年齢差があつたが、平成二年八月末ころから交際するようになり、同年九月一六日及び同月二三日に男女関係を持つに至つた。

4  平成二年九月二五日夜、乙山二郎は、内妻甲野正子に性交渉を求めたが、これを拒否されたので同女と口論となり、同女に男性関係があるのではないかと問い詰めた。甲野正子は、これに対し沈黙を守つたが、乙山二郎の就寝後被告丙野に電話をかけ、同女宅前にすぐ来るよう呼び出した。

右呼出に応じた被告丙野は、同日午後一一時過ぎに軽四輪自動車で同女宅前に駆けつけ、同女を同乗させ、大阪方面に向かつて右軽四輪自動車を運転しながら同女から乙山二郎との口論の内容を聴いたが、同女が「今晩は一緒にいたい」と言うので、その夜は同女と神戸市のラブホテルに宿泊した。

なお、被告丙野は、同日夜自宅を出るとき、現金約三〇万円とカードで出金できる預金約三〇万円の合計約六〇万円の所持金を持つていたが、甲野正子は自宅を出るとき着の身着のままの状態であつた。

5  甲野正子と被告丙野は、一夜明けると家に帰りにくくなり、右所持金もあつたことから、二人で旅行に出掛けることにし、同月二六日に松山市、翌二七日には熊本に宿泊した。

6  同月二八日鹿児島県の桜島にいたとき、甲野正子が「出てきてしまつたし、もう帰れない。もう死んでしまいたい。」「北海道に行つて一緒に死のう。」と言うので、被告丙野もこれに同調した。そして、二人は、同日広島に宿泊し、翌二九日稚内に到着し、そこでレンタカーを借りた。被告丙野は、同二九日車内で両親及び兄清三宛の遺書二通を書き、甲野正子同二九日から翌三〇日にかけて車内で原告ら及び両親宛の遺書を書き、二人は同三〇日稚内でそれぞれ遺書を投函した。

7  同月三〇日、甲野正子と被告丙野は、稚内市内の金物屋でゴムホース、ガムテープなどを購入したうえ、宗谷岬付近の砂浜でゴムホースを車内に引き込み車の排気ガスを吸入して心中をしようとしたが、被告丙野は排気ガスの悪臭と頭痛に我慢が出来なくなり、運転席の窓を開け換気したので、心中は未遂に終わつた。

8  翌一〇月一日、稚内付近のカーホテルにおいて、甲野正子は、被告丙野が寝入つた後、単独で自殺をしようとして、右手に持つたカツターナイフで自分の左腕を切りつけたが、数条の切創ができ出血したものの深い傷を負うまでには至らず、「切れない。」と大声で叫んで被告丙野を起こしてしまい、自殺は未遂に終わつた。

9  翌一〇月二日、標津を経由して釧路に向かつたとき、甲野正子が「東京へ行つて二人で暮らそう。仕事を見つけて一緒に暮らそう。」と言つたので、これを聞いた被告丙野は「死ぬのはやめて結婚して一緒に生活したい。いつまでも正子さんと一緒にいたい。」と思うに至つた。そして、二人は、東京に行き、一緒に暮らすことを企図した。

10  甲野正子と被告丙野は、翌一〇月三日釧路に宿泊し、翌四日東京に到着してアパートを捜したが賃料が高くて借りることができず、翌五日静岡でアパートと仕事を捜したが結局見つからなかつた。そこで、二人は、途方に暮れてしまつたが、所持金が残つていたので、とりあえず東北地方に旅行することにした。

11  甲野正子と被告丙野は、同一〇月五日東北新幹線で仙台に到着して宿泊し、翌六日被告丙野は仙台駅前にある被告ジヤパレンの仙台営業所で本件車両を)借りた。そして、二人は、本件車両でドライブ旅行に出掛け、同六日石巻、翌七日釜石、翌八日宮古でそれぞれ宿泊した。

二人は、翌九日午前一〇時ころ宮古を出発し、盛岡を経由して、午後五時すぎころ八戸に到着した。そして、八戸から海沿いに国道四五号線を南下して仙台に戻ることにし、被告丙野が本件車両を運転したが、八戸の薬局で購入した精神安定剤を服用した甲野正子は、本件車両が久慈市を通過するころには、倒した助手席のリクライニングシートの上で眠つていた。

12  本件車両で国道四五号線を南下していた被告丙野は、岩手県下閉伊郡田野畑村に差しかかつたとき、路上の行き先表示盤を見て海岸に出ようと思い、国道四五号線から左折して村道田野畑・平井賀線に入り、平井賀方面に向かつて本件車両を走行させた。被告丙野は、小便をしたくなつたので、同郡田野畑村和野一七番地二先の右村道脇にある空地に本件車両を止め、下車して右空地の崖寄りの端で小便をした。

小便を終えた被告丙野は、本件車両を運転して右村道を進行したが、羅賀トンネルを越えて少し進んだところ(右空地から約三一〇〇メートル進行した地点)で道に迷つたと思い、そこで方向転換してもと来た道を戻つた。

13  そして、同九日午後九時三〇分過ぎころ、被告丙野は、通称「羅賀坂」にさしかかつた。「羅賀坂」は別紙図面1に記載されているとおりつづら折りの登り坂道で、道路右外側は山を切り崩した斜面となつており、道路左外側は谷になつており、左側道路端には転落防止のためのガードレールが設置されていた。本件現場付近には、照明はなく、夜間は暗かつた。

14  ところで、本件車両が「羅賀坂」途中の別紙図面2表示の〈2〉地点(別紙図面1表示のC地点)に至つたとき、助手席で眠つていた甲野正子が突然「腕が痛い」と大声で叫び左腕を肩からゆする様にしてブルブルと振りだした(なお、甲野正子は前記のとおり本件車両が久慈市を通過するころ眠つてからずつと眠つたまま右〈2〉地点に至つたものであり、倒した助手席のリクライニングシートの上で左肩を上にして運転席の被告丙野に顔を向けるようにして横になつていた。)。

そこで、被告丙野は、左手で甲野正子の左腕を押さえながら「大丈夫か」と声を掛けたが、甲野正子は「痛い」と言つて目を閉じたままリクライニングシートに横たわつていた。同女の様子が気になつた被告丙野は、体を同女の方に歪めた姿勢で、視線を交互に同女に向けたり、左側道路端のガードレールに向けたりしながら、ライトに照らし出されるガードレールの曲がり方を目安にして本件車両で「羅賀坂」を上り続けた。そして、時速約五〇キロメートルで進行しながら別紙図面2表示の〈3〉地点ないし〈4〉地点に至つたとき、被告丙野は、左前方の同図面表示のA地点にガードレール(往路小便をした前記空地の崖側の端に設けてあった。)があること、さらには、同図面表示のB地点で左側道路端のガードレールが一旦途切れていることを認めて、進行している道路がB地点で左に曲がつているものと錯覚した。そこで、被告丙野は、〈5〉地点付近でハンドルを左に切つたが、その直後ガタガタという振動を感じ、〈6〉地点で前方の地面を見て路外の空地に出てしまつたことに気付き、ブレーキを踏もうとしたが、間に合わず、〈7〉地点から本件車両を崖下に転落させた(なお、転落する前に甲野正子の寝ていた助手席のリクライニングシートが倒れた状態にあつたことは、運転席の背もたれが強力な加圧で壊れているのに、助手席のシートには異常が認められないとの実況見分調書〔丙七号証〕の記載部分及び被告丙野が本件事故後意識を回復して倒れた助手席に移動し苦労して助手席のシートを起こしたとの被告丙野の供述記載部分〔丙一六号証の三、四項〕によつて、裏付けられる。)。

15  被告丙野は、平成二年一〇月一一日朝救出現場に駆けつけた警察官に事情聴取されて、甲野正子が左腕が痛いと言うので摩つてやつているうちに転落した旨述べ、同年一一月一日から同月二五日まで多数回にわたつて行われた被疑者取調べにおいても、一貫して本件事故が被告丙野の過失によるものである旨供述し、故意によるものであることを認めたことは全くない。

右認定事実によれば、被告丙野と甲野正子は、北海道で心中未遂をしたものの、その後心中することは断念して本件車両に乗つて東北地方をドライブ旅行しているとき本件事故現場付近にさしかかつたこと、被告丙野は、本件車両を運転し、時速約五〇キロメートルで進行していたが、前方左右を注視し道路の湾曲に沿つた適切な進路を保持して進行すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、突然腕の痛みを訴えた助手席の同乗者甲野正子の方に目をやり、前方左右を注視せず、漫然進行した過失により、本件車両を崖下に転落させたことが認められる。

ところが、被告ジヤパレン及び被告安田火災は、本件事故が被告丙野の自殺すなわち故意によるものであると主張するので、以下この主張について判断する。

A 被告ジヤパレン及び被告安田火災は、被告丙野及び甲野正子が平成二年九月三〇日宗谷岬付近で排気ガス自殺を試みたこと並びに甲野正子が翌一〇月一日稚内付近のカーホテルで左腕をカツターナイフで切つて自殺を図り未遂に終わつたことを根拠に、本件事故が被告丙野の自殺によることを推認できる旨主張する。

しかしながら、前記認定のとおり、〈1〉排気ガス自殺については、被告丙野は排気ガスの悪臭と頭痛に我慢が出来なくなり、自ら窓を開けて自殺を中止している。また、〈2〉カーホテルでの自殺については、被告丙野が寝ている時に甲野正子が単独でなしたもので、それ自体被告丙野の自殺念慮の強さを裏付けるものではない。むしろ、正子が単独で自殺に及んだことは、被告丙野の自殺念慮の希薄さを根拠付けるものともいえる。さらに、〈3〉翌一〇月二日標津から釧路に向かう途中、甲野正子が「東京へ行つて二人で暮らそう。仕事を見つけて一緒に暮らそう。」と言つたので、これを聞いた被告丙野は、「死ぬのはやめて結婚して一緒に生活したい。いつまでも正子さんと一緒にいたい。」と思うに至つて以降、本件事故日の同月九日まで、自殺に及ぶ行為を一切していない。むしろ、同月四日東京でアパートを探し、翌五日静岡でアパートと仕事を探し、生きるための努力をするに至つている(もつとも、甲一二、一三号証によれば、右アパート捜しと仕事探しは成果がなく、その後、甲野正子は「死ぬのなら、死んでもいい、仕事を見つけるならそれでもいい。」とすべてを被告丙野に任せる態度に出、被告丙野はどうしていいか分からないがどちらかといえば生きることを考えてとりあえず東北方面に旅行に出掛けたことが認められる。)。以上〈1〉ないし〈3〉の事実に照らせば、前記各自殺未遂行為は本件事故における自殺意思の推定根拠にならないというべきである。

B さらに、被告ジヤパレン及び被告安田火災は、転落の少し前に本件車両が本件空地に停車しているのを村人が目撃していることを根拠に、本件事故が被告丙野の自殺によることを推認できる旨主張する。確かに、丙五号証によれば、本件事故当夜の午後九時一五分ころ本件車両が本件空地に停車していたのを農協職員大沢貞一が目撃したことが認められる。

しかしながら、乙一号証の2及び丙一五号証によれば、被告丙野は、平成二年一一月一日の第一回の取調べのときから本件空地に停車して小便したことを隠すことなく素直に供述していることが認められる。また、前記認定のとおり、被告丙野は、本件空地から三一〇〇メートル進行して道に迷い、そこで方向転換してもと来た道を戻り、再び本件空地のあるつづら折りになつた通称「羅賀坂」にさしかかつている。このような場合、進行距離が片道三一〇〇メートルもあり、つづら折りになつた見知らぬ坂道を夜間逆方向に進行してきたのであるから、本件空地を先程小便をした所と同一のものであると識別できなかつたとしても不自然ではない。

右説示に照らせば、本件車両が事故当夜午後九時一五分ころ本件空地に停車していたことも自殺意思の推定根拠にならないというべきである。

C 丙二号証(第四項)及び丙四号証(運転実験捜査報告書)には、運転実験の結果、夜間ガードレールを目安に走行しても同時に道路外側線がライトに照らし出されて見えるから、その外側線の引かれた方向によつて本件事故現場付近で道路が右にカーブしていることが分かり、ガードレールの切れ目付近から道路が左にカーブしていると錯覚することはあり得ない旨の記載があり、検丙一九、二六号証にも本件事故現場付近路上に引かれた右にカーブする道路外側線が写し出されている。被告ジヤパレン及び被告安田火災は、右各証拠を根拠にして、本件事故が被告丙野の自殺によることを推認できる旨主張する。

しかしながら、運転実験をする警察官は冷静な状態で観察できるのに対して、助手席で眠つていた正子から突然腕の激痛を訴えられた被告丙野は、自己の左手で同女の腕を押さえたり、同女を気遣つて同女の方を脇見したりしながら、体を同女の方に歪めた状態でガードレールを目安に走行していたのであるから、右警察官の認識の範囲と被告丙野の認識の範囲にはおのずと著しい相違があり、右のごとく慌てた状態にあつた被告丙野が、右にカーブする道路外側線に気づかなかつたとしても、必ずしも不自然とはいえない。したがつて、被告ジヤパレン及び被告安田火災の右主張は採用できない。

D 被告ジヤパレン及び被告安田火災は、つづら折りのカーブが続く登り坂では右カーブと左カーブは交互に連続しているのであるから、本件現場付近で右カーブを左カーブと間違えることはなく、これを間違えたとする被告丙野の供述は信用できず、このことが自殺説の根拠となる旨主張する。確かに、前記認定のとおり、「羅賀坂」は別紙図面1に記載されているとおりつづら折りの登り坂道である。

しかしながら、検丙七号証によれば、本件現場の手前の道路は少なくとも六〇メートルくらいはほぼ直線になつており、つづら折りの登り坂であつても、直線部分の後、左右いずれのカーブがあってもおかしくない。前記認定のとおり、被告丙野は、左前方の別紙図面2表示のA地点にガードレールがあること、さらには、同図面表示のB地点で左側道路端のガードレールが一旦途切れていることを認めたので、進行している道路がB地点で左に曲がっているものと錯覚したのであつて、その旨の被告丙野の供述は十分信用できる。したがつて、被告ジヤパレン及び被告安田火災の右主張も採用できない。

E 被告ジヤパレン及び被告安田火災は、本件現場付近はかなり急な登り坂で左右の急カーブが連続していたのであるから被告丙野が時速約五〇キロメートルで走行することは不可能であり、さらに道路端から約一二メートル前後の空地部分があるのであるから、道路から外れたと認識した段階で急ブレーキをかけずとも容易に停車できた旨主張し、これをも自殺説の根拠としている。

しかしながら、検丙五号証によれば、本件現場の手前の道路は少なくとも一二〇メートルくらいは極めて緩いカーブないしほぼ直線になっており、登り坂もゆるやかなものであることが認められるから、被告丙野が時速約五〇キロメートルで走行することは十分可能であつたというべきであり、時速五〇キロメートルで走行すれば一秒間に一三メートル進行するのであるから、右主張も採用できないというほかはない。

F 被告ジヤパレン及び被告安田火災は、被告丙野が捜査機関に対する弁解の内容を事故現場の状況に合わせて変遷させていると主張し、これをも自殺説の根拠としている。

丙二号証(事件検討報告書)によれば、被告丙野は、平成二年一一月一日の第一回取調において、「ハンドルは意識して左に切つた覚えはなくそのまま自然に入つていつた」旨の供述をしたこと、右取調にあたつた司法警察員大平博は右供述が現場の状況と一致しないと考察したことが認められるが、甲一一号証(被告丙野の司法警察員大平博に対する平成二年一一月一日付け供述調書)によれば、右第一回取調において、被告丙野は「そのうちにガードレールが途切れてしまいましたが私としてはそのまま道があると思つていましたし、その道はなんとなく左にカーブしている様に判断したのです。」とも供述していることが認められるから、道が左にカーブしている様に錯覚したとの右供述をも併せ考えると、「ハンドルは意識して左に切つた覚えはなくそのまま自然に入つていつた」旨の前記供述は、ハンドルを左に切つたことを否定する趣旨のものとは評価できない。そうすると、被告丙野がハンドルを左に切つたことがない旨供述したことを前提として、右供述と現場の状況とが一致しないとする司法警察員大平博の前記考察は当を得ないことになる。

丙二号証(事件検討報告書)の第三項の3、4中には、被告丙野は平成二年一一月一六日実施の本件現場の実況見分のとき空地の崖側にあるガードレールを確認して「あのガードレールに沿つて左方に道路が曲がつているものと思いハンドルを左に切つた」と主張し出したとの記載部分がある。しかし、同日以前に作成された甲一三号証(被告丙野の同月一〇日付け供述調書六項)にも「ガードレールがやや急に左に曲がつていたことから、急な左力ーブと思い、左にハンドルをきつたのでした。」との供述記載部分があり、右実況見分以前にも被告丙野が空地の崖側にあるガードレールの存在を認識していたことを供述していた可能性も否定できない。

なお、本件事故当時空地の崖側にあるガードレールをどのように認識したかについての被告丙野の供述は必ずしも一貫していないが、右ガードレールについての認識は一瞬のことであるし、被告丙野が受けた事故による衝撃、意識喪失をも考慮すると、右認識についての被告丙野の記憶がある程度あいまいで、これについての供述か一貫しないのも不自然ではないといわなければならない。

以上によれば、被告丙野が捜査機関に対する供述内容を事故現場の状況に合わせて意図的に変遷させたとの前記主張は採用できない。さらに、右AないしFに記載したもののほか自殺説の根拠として主張されているところを検討しても、結局、本件事故が被告丙野の自殺によるものであると認めるに足りる証拠はない。したがつて、本件事故が被告丙野の故意によるものであるとの被告ジヤパレン及び被告安田火災の前記主張は理由がないことになる。

二  争点2(被告ジヤパレンは、自賠法三条所定の「自己のために自動車を運行の用に供する者」に該当するか。)について

証拠(丙一七号証、一八号証)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

被告ジヤパレンは、レンタカーを賃貸するに際して、借受人が運転免許証を有しているかを確認し、これを有していないときは契約を拒絶することがあり、借受人に使用期間を指定させて使用期間に応じて出発時申込金の名目で賃料の前払いをさせ、借受人の使用中、使用期間を変更するときには予め被告ジヤパレンの承諾を得なければならないものとし、これを怠つたときには所定の違約料を支払わねばならないものとし、レンタカーに係る事故が発生したときには大小にかかわらず被告ジヤパレンに報告することが義務づけられており、レンタカーの異常又は故障を発見したときは直ちに被告ジヤパレンに連絡しその指示に従うことが義務づけられていた。そして、レンタカーの整備は被告ジヤパレンによつて行われ、レンタカーに整備不良がないことを確認のうえで借受人に引き渡されていた。

自賠法三条所定の「自己のために自動車を運行の用に供する者」とは、自動車の使用についての支配権を有し、かつ、その使用により享受する利益か自己に帰属する者を意味すると解すべきところ、右認定事実によると、使用期間内に借受人か交通事故を発生させたときには、被告ジヤパレンはレンタカーに対する運行支配及び運行利益を有していたというべきであるから、運行供用者にあたるといえる(最高裁判決昭和四六年一一月九日民集二五・八・一一六〇、最高裁判決昭和五〇年五月二九日判時七八三・一〇七参照)。

ところで、丙一七号証によれば、被告丙野は本件車両を借り受ける際使用期間を平成二年一〇月六日一四時三〇分から翌七日一四時三〇分までと指定したことが認められる。しかし、本件事故は右使用期間経過後の平成二年一〇月九日午後九時三五分ころ発生した。そこで、被告ジヤパレン及び被告安田火災は、本件事故当時は被告ジヤパレンは本件車両についての運行支配及び運行利益を有しなかったと主張する。

そこで、被告ジヤパレンが本件事故発生時までに本件車両についての運行支配及び運行利益を喪失したか否かにつき判断するに、丙一八号証によれば、借受人が使用期間満了のときから七二時間を経過してもレンタカーを返還しないときには全国レンタカー協会に乗り逃げ被害報告をするなどの措置をとることができる旨貸渡約款三〇条に定められていることが認められるが、本件車両の使用期間満了時である平成二年一〇月七日一四時三〇分から本件事故発生時である同月九日午後九時三五分ころまでには約五五時間しか経過しておらず、本件全証拠によつても、被告ジヤパレンが本件事故発生時までに本件車両を乗り逃げ被害にあつたものと処理したことを認めるに足りる証拠はない。また、甲一三号証によれば、被告丙野は本件事故当時仙台に向かつて運転しており、本件事故に遭遇しなければ被告ジヤパレン仙台営業所に本件車両を返還するつもりであつたことが認められるから、本件車両を乗り逃げする意思はなかつたといえる。さらに、丙一八号証によれば、貸渡約款二八条には被告ジヤパレンの承諾を得ないで使用期間経過後にレンタカーを返還した場合「超過時間数×超過料金単価×三〇〇%」の違約料を徴収する旨の定めがあることが認められ、被告ジヤパレンは貸渡約款上単なる無断の返還遅滞が生じることを予想し、高額の違約料を徴収することにしている。そして、被告丙野が本件事故を生じさせることなく本件車両を被告ジヤパレン仙台営業所に返還した場合には、右貸渡約款二八条に従って違約料の徴収がなされたであろうことが推認できる。以上を総合すると、被告ジヤパレンは本件事故発生時までに本件車両についての運行支配及び運行利益をともに喪失していないというべきである。

したがつて、被告ジヤパレン及び被告安田火災の右主張は採用できず、被告ジヤパレンは本件事故当時も依然として自賠法三条所定の「自己のために自動車を運行の用に供する者」たる地位を有していたといえる。

三  争点3(亡甲野正子の逸失利益)について〔原告らの請求金額五八三二万〇三八一円〕

証拠(甲五号証の1、二〇号証、丙九号証)によれば、亡甲野正子は、昭和二八年一〇月四日生まれ(死亡当時三七歳)の女性であること、同女は中学校卒業後看護婦見習いとなり、その後看護婦の資格を取得して以来、亡夫の看病のため一時辞めた以外は平成二年四月まで一貫して看護婦として稼働してきたこと、同女は平成二年四月以降も看護婦として稼働する意思を有していたが、自己に相応しい病院が見つからず、失業保険を受給していたこと、同女は求職期間中もパートタイマーとして稼働したいと思い職業安定所に秘匿するとの約束の下で平成二年八月一日から弁当屋でパート勤務をしていたことが認められる。右認定事実によれば、亡甲野正子は、本件事故当時一時的に弁当屋でパートタイマーをしていたものの、看護婦として求職中であり看護婦として稼働する意思も資格もあつたというべきであるから、同女の逸失利益は看護婦としての収入額を基礎にして算出するのが相当である。そして、証拠(甲一八号証の2)によれば、亡甲野正子の平成元年の白井病院ての年収額は金四五二万二八一八円であることが認められるから、同女の逸失利益算出の基礎となる平成二年の年収額は少なくとも金四五二万二八一八円はあつたというべきである。

亡甲野正子は、前記認定のとおり死亡当時三七歳であつたから、六七歳まで三〇年間就労可能であつたというべきであり、甲一〇号証によれば内縁の夫丁川(旧姓乙山)二郎と共稼ぎをしながら原告らを養育してきたことが認められるから、逸失利益の算定に当たり同女の生活費として三〇パーセントを控除するのが相当である。

そこで、ライプニツツ方式により中間利息を控除して亡甲野正子の逸失利益を算出すると、次の計算式のとおり、四八六六万八五九七円(円未満切捨)となる。

452万2818円×(1-0.3)×15.3724=4866万8597円(円未満切捨)

そして、原告らは、それぞれ亡市川敏子の右損害賠償請求権四八六六万八五九七円の二分の一を相続するから、各二四三三万四二九八円(円未満切捨)の債権を取得する。

四  原告らの固有の慰藉料〔原告らの請求金額各一二〇〇万円〕

原告らと亡甲野正子との身分関係、亡甲野正子の死亡時の年齢、本件事故に至る経緯、本件事故の態様、亡甲野正子自身の慰藉料を請求してないこと、後記の慰藉料減額事由、その他本件にあらわれた一切の事情を考慮すると、本件事故によつて原告らの受けた精神的苦痛に対する慰藉料としては、各七〇〇万円が相当であると認められる。

五  葬儀費用〔原告らの請求金額各五〇万円〕

前記争いのない事実及び弁論の全趣旨によれば、原告らは亡甲野正子の子であり、亡甲野正子の葬儀をおこない、その費用を支出したことが認められるが、亡甲野正子の死亡時の年齢、社会的地位などを考慮すると、本件事故による葬儀費用として認容すべき額は、原告らにつき各五〇万円と認めるのが相当である。

六  争点5(好意同乗減額)について

加害者の運転する車両に同乗していて交通事故にあった被害者の加害者に対する損害賠償請求においては、単に好意同乗をしていたというだけで被害者の被った全損害に対して減額をするのは相当ではなく、同乗していた被害者において、事故発生の危険が増大するような状況をみずから積極的に現出させたり、あるいは事故発生の危険が極めて高いような客観的事情が存在することを知りながらこれを容認して同乗した場合など、事故発生につき非難されるべき事情が存在する場合に限つて、このような事情を被害者の過失とみて、相応の過失相殺をするのが相当であると解する。

一の11ないし14で認定した事実関係によると、助手席の甲野正子が突然「腕が痛い」と大声で叫び左腕を肩からゆする様にしてブルブルと振りだしたことが契機となつて運転者である被告丙野の前記過失が生じているが、他方、甲野正子は久慈市を通過するころからずつと眠つたままであり、右のごとく腕の痛みを訴えたときも眠つたままの状態か半睡半醒の状態にあつたと推認でき、そのような状態下では見当識も是非弁別能力も全くないから、覚醒時にあるときと異なり、痛みを表す言動を反射的に表出したとしても「事故発生の危険が増大するような状況をみずから積極的に現出させた」ことに当たらないというべきである。また、本件現場が存在する「羅賀坂」はつづら折りの登り坂道であるが、甲野正子は右のとおり眠つていて「羅賀坂」を通過していることを知らなかつたのであるから、「事故発生の危険が極めて高いような客観的事情が存在することを知りながらこれを容認して同乗した場合」にも当たらないのは明らかである。そして、他に、甲野正子について「事故発生につき非難されるべき事情」が存在すると認めるに足りる証拠はない。

したがつて、同乗者である甲野正子について、過失相殺をするのは相当ではない。

なお、被告丙野は甲野正子と男女関係があつたこと、甲野正子は、一二歳年下の大学生であつた被告丙野に積極的に誘いかけて、出奔、逃避行及び心中未遂を敢行したこと、長距離ドライブ旅行中であるにもかかわらず甲野正子は本件事故当日精神安定剤を服用して眠つてしまい被告丙野に本件車両の運転を任せつぱなしにしたことは、前記一認定のとおりであるところ、原告らの慰藉料の算定に当たつては、公平の見地から、これらの事情を慰藉料の減額事由として斟酌するのが相当である。

七  損害のてん補(既払金額の控除)

前記三ないし五によって原告ら各自の請求できる金額の合計は、各三一八三万四二九八円(原告ら全体では合計六三六六万八五九六円)となる。

前記のとおり、本件事故についての損害のてん補として自賠責保険金から原告らに対し二五〇〇万円が支払われ、原告らは各自その二分の一の一二五〇万円を自己の取得分として受領したことは当事者間に争いがないから、これを右各三一八三万四二九八円から控除すると、残額は各一九三三万四二九八円になる。

八  弁護士費用〔原告らの請求金額各一〇〇万円〕

原告らが本件訴訟の遂行を原告ら訴訟代理人に委任したことは本件記録上明らかであるところ、本件事案の内容、審理経過、請求認容額等諸般の事情に照らすと、弁護士費用については、総額二〇〇万円をもつて本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当であり、前記相続分に照らすと、原告らは各一〇〇万円を請求することができるとすべきである。

九  争点6(債権者代位権による保険金請求権の代位行使)について

以上によれば、原告ら各自は被告丙野に対して各二〇三三万四二九八円の不法行為による損害賠償債権を有している。そして、被告丙野が無資力であること及び被告安田火災は、被告ジヤパレンとの間に、平成二年七月二九日、本件車両につき運転者及び被告ジヤパレンを被保険者とし事故日を保険期間内とする保険金八〇〇〇万円の自動車保険契約を締結した保険者であることは当事者間に争いがない。さらに、本件訴訟において、原告らは、被告丙野に対して右損害賠償債権を有しているので、民法四三二条により、右債権を代位債権とし、原告らと被告丙野との間の損害賠償額の確定を停止条件として、運転者(被保険者)である被告丙野が有する右自動車保険契約に基づく保険金請求権を被告丙野に代位して請求したことは記録上明らかである。

右自動車保険契約に適用される昭和六〇年九月一日改定の自動車保険普通保険約款によれば、同普通保険約款第四章二〇条には、被保険者の保険者に対する保険金請求権は、損害賠償責任の額について被保険者(加害者)と損害賠償請求権者(被害者)との間で判決が確定したとき又は裁判上の和解、調停もしくは書面による合意が成立したときに発生し、これを行使することができる旨規定されていることが認められる。しかし、右規定及び右自動車保険契約の性質に鑑みれば、右保険約款に基づく被保険者の保険金請求権は、保険事故の発生と同時に被保険者と損害賠償請求権者との間の損害賠償額の確定を停止条件とする債権として発生し、被保険者が負担する損害賠償額が確定したときに右条件が成就して右保険金請求権の内容が確定し、同時にこれを行使することができることになるものと解するのが相当である。そして、本件のごとく、損害賠償請求権者が、同一訴訟手続で、被保険者に対する損害賠償請求と保険会社に対する被保険者の保険金請求権の代位行使による請求とを併せて訴求し、同一の裁判所において併合審判されている場合には、被保険者が負担する損害賠償額が確定するというまさにそのことによつて右停止条件が成就することになるのであるから、裁判所は、損害賠償請求権者の被保険者に対する損害賠償請求を認容するとともに、認容する右損害賠償額に基づき損害賠償請求権者の保険会社に対する「被保険者の保険金請求権の代位行使による請求」は、予めその請求をする必要のある場合として、これを認容することができるものと解するのが相当である(最高裁判決昭和五七年九月二八日民集三六・八・一六五二参照)。

してみると、被告安田火災は、原告らに対し、被告丙野に対する本判決が確定したときは、被告丙野の損害賠償額と同額の保険金及びこれに対する右確定の日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払請求に応ずる義務があることになる。

一〇  争点7(被告丙野に対する原告らの本訴請求が権利の濫用になるか。)について

原告らの被告丙野に対する本訴請求は、本件車両の運転者である被告丙野に本件事故の発生につき過失があるとして民法七〇九条に基づく損害賠償請求をするものであるが、本件事故に至る経過及び本件事故の態様は一に判示したとおりであり、原告らの被告丙野に対する本訴請求が権利の濫用と認めるに足りる証拠はない。したがつて、被告丙野の権利濫用の主張は採用できない。

一一  まとめ

以上によれば、原告らの被告丙野及び被告ジヤパレンに対する請求は、原告ら各自が、同被告らに対し、連帯して、各金二〇三三万四二九八円及びこれに対する本件事故発生日の翌日である平成二年一〇月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がなく、原告らの被告安田火災に対する請求は、原告ら各自が、同被告に対し、被告丙野に対する本判決が確定したときは、各金二〇三三万四二九八円及びこれに対する右確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない。

(裁判官 中野信也)

図面1 被疑車両走行経路図

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